藤本 肇

(漢方ジャーナリスト) 健康雑誌・書籍などを中心にフリーライターとして活動し、 特に中国の漢方(中医学)事情に詳しい。編集制作会社 「プラスワン」代表

【第43回】

単なる縁起ものでなく…
健胃効果に優れた薬用酒

 年もおしせまり、21世紀はすぐそこまで来ています。
 今回は、正月に欠かすことのできない、お屠蘇(とそ)の話です。都会の生活では、正月といっても屠蘇を知らずに一年がスタートする家庭も多いかと思います。
 一年の邪気を払い、齢(よわい)をのばすという屠蘇の風習は、わが国では平安時代に始まりました。そのルーツをさかのぼっていくと、中国の三国時代へたどりつきます。
 屠蘇の「屠」は病を殺す、「蘇」は生命をよみがえらせる、の意味があり、屠蘇はもともと「屠蘇延命散」「屠蘇散」といわれる、れっきとした漢方薬なのです。魏の名医、華陀(かだ)の処方といわれ、その中身は白朮、桂皮、防風、山椒、桔梗、その他数種類の生薬を配合し、絹や木綿の袋につめて酒やミリンに浸し、成分を抽出したものです。
 中国の古い文献によると、屠蘇が庶民の正月行事に組み込まれたのは六世紀ごろのこと。家族の一年の健康を願って、年少者から順に回し飲んだといわれます。しかし、元祖の中国では、すでに屠蘇の習慣はすたれ、どの地方にも残っていません。
 日本には奈良時代にもたらされ、平安時代初期の弘仁年間に宮中の新年の宴(うたげ)に用いられ、やがて平安貴族の間に定着しました。庶民の間に普及したのは江戸時代のことで、明冶に入ると薬局でも販売されています。今日でも、一年間の無病息災の願いを込めて、お客さんに配る薬局もあるようです。
 屠蘇の漢方薬としての薬効はどうでしょうか。
 白朮はキク科の植物・朮(おけら)の根で健胃・利尿、桂皮は身体を温め、発汗と解熱、防風は発汗・抗菌・鎮静、山椒は健胃・抗菌、桔梗はセキ止め・タンを切る、などの作用を持っています。
 総合すると、身体を温め、胃腸の消化を促進し、病邪を発散するクスリ。屠蘇は、単なる縁起もののおまじないではなく、一年のスタートにあたって、今年も胃腸が丈夫で病気にならないようにとの思いを込めていただくアリガターイ薬用酒ということになります。健胃効果にもすぐれ、おせち料理の食べすぎにもよく効きます。
 屠蘇は、胃弱な人の風邪防止薬として毎日飲んでもかまいません。毎日飲んで、365日お正月気分というのも、おつなものではないでしょうか。
 21世紀を健康と元気でお迎えください。
 
(藤本 肇・漢方ジャーナリスト)