藤本 肇

(漢方ジャーナリスト) 健康雑誌・書籍などを中心にフリーライターとして活動し、 特に中国の漢方(中医学)事情に詳しい。編集制作会社 「プラスワン」代表

【第41回】

きめ細かい「八綱弁証」の中国
処方選択がパターン化の日本

 中国漢方と日本の漢方はどう違うのか? 
 読者からよくこんな質間が寄せられます。なかには同じものだと思い込んでる方も相当数います。
 ズバリ言ってそのルーツは同じですが、その後の発達からいえば二つの医療は別のものだということです。
 この連載で使っている中国漢方とは、正式には中医学(中国伝統医学)と呼ばれるものです。中国にある植物・動物・鉱物などの自然の生薬を使う湯液を中心に、鍼灸(しんきゅう)、養生などを含む総合医学で、その歴史は数千年にもさかのぼります。
 その中国伝統医学が日本にもたらされたのは大和朝廷のころです。その後の長い歴史のなかで、別々のコースをたどったのが日本と中国の漢方医療なのです。
 診察法は基本的には同じです。病歴や症状をきく問診、患者の顔色や舌の色を見る望診、声をきく聞診、脈や腹部の状態をみる切診などがあります。
 しかし診断の内容や評価にはかなりの違いがみられます。中国漢方では、病気は表にあるのか裏にか、病気の性質は寒なのか熱なのか、全身状態は虚なのか実なのか、表裏・寒熱・虚実・陰陽を細かく判断。これを「八綱弁証」といいます。また患者の状態は時間とともに変化します。投薬による経過も見ながら、きめ細かく処方を変えていきます。
 日本の漢方でも診断はありますが、それによって病状を細かく分析するというよりは、症状によって処方の選択がパターン化され、「クシャンときたら」自動的に「●●三錠」とくるようなもの。たとえば「寒気がして、首すじがこり、汗はかいてない」といえば、これは無条件に葛根湯が出てくるわけです。このようなクスリの見立てのスタイルを「方証相対(方証一致)」と呼んでいます。これは中国後漢期に書かれた体系的医書「傷寒論」をもとにしたもので、確かに初めて漢方を学ぶものにとっては分かりやすく、ソフトウエアとして広く普及したのも十分うなずけます。
 中国でも「傷寒論」に対する評価は高いものの、それ以前の「黄帝内経」や、隋・唐・元・明などあらゆる時代の医療成果を踏まえ理論と実践を兼ね傭えた体系的ソフトをつくりあげ、それを運用しています。
 ここではどちらがより優れた医学であるのかは本題ではありません。二つの医学があるということを認識してもらうだけで十分です。日中の漢方および西洋医学が、それぞれに補いあいながら新しい医学体形ができる--これが21世紀の理想の医学であることだけは間違いありません。
 
(藤本 肇・漢方ジャーナリスト)