藤本 肇

(漢方ジャーナリスト) 健康雑誌・書籍などを中心にフリーライターとして活動し、 特に中国の漢方(中医学)事情に詳しい。編集制作会社 「プラスワン」代表

【第30回】

耳は腎につながる
メニエール病は余分な津液を体外に排出

 ストレスや過労が続いたあと、ある日突然、激しいめまいに襲われるのがメニエール病です。
 命にかかわるようなものではありませんが、一度発病すると、めまいの発作は繰り返すことが多く、難聴、耳鳴り、吐き気などを伴うやっかいな病気です。
 発病のメカニズムについてはよく分かっていませんが、ストレスが引き金になるケースが数多く報告されています。発展途上国ではあまり聞かれない病名で、患者が先進国に集中しているということでは、一種の文明病といえるかもしれません。
 中年以降の男性、それも頭脳労働者に発病する例が多く、タイプ的にはきちょうめんな人、責任感の強い人、負けん気の強い人が要注意。サラリーマンにとっても他人ごとではない病気です。
 医学的に分かっていることは、メニエール病の患者の内耳には、リンパ液が過剰にたまるということです。そのため平衡器官に障害が起こり、めまいを引き起こすのではないかと考えられています。なぜ内耳にリンパ液がたまるのかについては、まだ明らかになっていません。
 東洋医学には当然ながらメニエール病という疾患はありませんが、「眩暈(めまい)」という病名があり、古人はメニエール病と同じ症状と、その対策を知っていました。 「眩暈」の原因は体内の水分が正常にめぐらないことだと考え、利尿作用の強いクスリを使うことでかなりの効果を上げてきました。
 耳にたまるリンパ液も、中国漢方でいうところの津液(体液)の一部です。めまいの発作時には、利尿作用の強い処方を用いて、余分な体液をすみやかに体外へ排出するように努めるわけです。むくみ、腹水、痰(たん)など、水のめぐりの悪いことで起こる病気を「痰湿」といいますが、眩暈という症状も痰湿によるものと考え、体内の水分コントロールで効果をあげてきた古人の知恵にはビックリさせられます。
 中国漢方では「耳は腎につながる」といい、耳と腎の関係を重視し、さらに「腎は水蔵なり、津液をつかさどる」とも教えています。いずれにしても眩暈の治療のポイントは腎にもあり、次にあげる処方に適当な補腎薬を組み合わせることがよく行われます。
 体内の水分の循環をよくする生薬としては、キク科の植物オケラの根である白朮、キノコの仲間の茯苓、水辺に生えるサジオモダカの根である沢瀉などがあり、それらの生薬を中心とした「苓桂朮甘湯(りょうけいじゅっかんとう)」や「沢瀉湯(たくしゃとう)」「半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅってんまとう)」といった処方が今日、メニエール病の発作にも応用され効果を上げています。
 
(藤本 肇・漢方ジャーナリスト)