藤本 肇

(漢方ジャーナリスト) 健康雑誌・書籍などを中心にフリーライターとして活動し、 特に中国の漢方(中医学)事情に詳しい。編集制作会社 「プラスワン」代表

【第20回】

肝を快調にすれば精神安定
不眠症、ストレス、イライラに中国漢方


 気分が高ぶって眠れない、眠りについても浅く、夜中に目が覚める、夢ばかりみて寝覚めがスッキリしない…。こんなかたちでストレスからくる不眠症に悩んでいるサラリーマンは意外に多いものです。
 やっかいなのは、病気だと公言するほどでもないし、会社の同僚からも「飲み足りないんじゃないの?」と一笑に付されるのがオチだと考えると、ますます内向し、症状を悪化させているケースもあるということです。
 そこで催眠剤のお世話に、というのが一つのパターンなのですが、催眠剤の長期服用は徐々に服用量をエスカレートさせることになり、その副作用にまで悩まされたのではダブルパンチというものです。中国漢方では、不眠症を臓腑の失調、とりわけ「心」「肝」と「腎」の影響が大きいと考えています。内臓を整え、体全体のコンディションを整えることで症状の改善をはかる、というのが不眠症冶療の基本です。サラリーマンの不眠症は、大半がストレスからくるものです。古人は、精神的なストレスは五臓(肝・心・脾・肺・腎)のうちの「肝」を痛めつけるといっています。肝は血液の貯蔵庫であり、血液によって体を養い、脳を養っている重要な臓器です。肝は人の感情(喜・怒・憂・思など)のうち、とりわけ「怒」に対して影響力をもっています。肝臓が疲労してくると、「怒」に対するコントロール機能が失われ、イライラがつのり、神経の高ぶりから夜も眠れないという症状が現れます。
 治し方としては、肝臓の疲れや鬱血をとり、精神を安定させるわけですが、よく使われる処方に「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」があります。これは肝の高ぶりを抑制する生薬に、睡眠を深める作用がある酸棗仁(サネブトナツメの種)を組み合わせたクスリで、イライラなど肝の症状が強い不眠症に効果があります。さらに、イライラが強いときは「抑肝散(よくかんさんこ)」、脇腹が張って痛むときは「柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」を組み合わせて用います。食欲不振があり、顔色の悪い不眠に適用される「帰脾湯(きひとう)」、足腰のだるさや手足のほてりをともなった不眠に適用される「天王補心丹(てんおうほしんたん)」など、個人の全身症状に応じて中国漢方にはきめ細かなクスリが揃っています。
 いずれの処方も、心、肝と腎の機能を調節し、血の循環、水分代謝をスムーズにする生薬が基本で、精神的に落ち着いてくれば自然と不眠からも解放されるようになるでしよう。
(藤本 肇・漢方ジャーナリスト)