藤本 肇

(漢方ジャーナリスト) 健康雑誌・書籍などを中心にフリーライターとして活動し、 特に中国の漢方(中医学)事情に詳しい。編集制作会社 「プラスワン」代表

【第5回】

夏バテ防止に熱を取る食物を食べよう


 10憶もの民をもつ中国には、さまざまな分野で、並はずれた才能を発揮する達人がいるものです。
 1990年秋、四川省成都で会った薬膳(やくぜん)師・孫蓉燦(そんようさん)氏も、そんな一人といえます。
 薬膳師とは、わが国では耳なれない呼び名です。「医」「食」の両分野を極めた人に与えられる国家資格で、中国広しといえども、有資格者はわずかに10人。数千年にわたって積み上げられてきた「医食同源(いしょくどうげん)」思想の、トップに立つ一人というわけです。人間のからだも一つの宇宙である以上、季節ごとの食べ物で、陰陽五行のバランスをとることが大切です。
 中国漢方では、生薬(しょうやく)も食べ物も、甘いとか辛いとかの薬味(食味)とともに、からだが温まるとか冷えるとかの薬性(食性)をもっていると考えています。夏は「寒」とか「涼」とかの食性をもった食べ物をとると、からだの熱が取りのぞかれて、暑さもしのぎやすい。
 中国で夏バテを防ぐ代表的な食べ物の一つに、緑豆(りょくず)があります。「寒」の食性をもつ緑豆には、からだの熱をさまし、利水(尿や発汗)の効果があるため、これを煎じてお茶がわりに飲んだり、おかゆにしたりします。最近は、日本でも輸入物の緑豆が手に入るようになりました。入手が難しい場合には、やや食性は落ちるものの、同じような効果をもつ小豆(あずき)で代用してみては。体力もピークを過ぎて、夏がめっきり弱くなったという中年サラリーマンにオススメします。
 野菜や果物で夏バテ防止に効果のあるものは、大根、トマト、ナス、キュウリ、トウガン、スイカ、夏ミカン、メロンなど、いずれも、からだの熱をとったり、利水の働きがあります。健康食品がブームになるようなどこかの国とは違って、中国では毎日の食事そのものを“健康の源”として重視します。食べ物のもつ性質(食性)やからだへの作用、その日の体調などを考えながら献立を考えるのが常識です。
 中国人の食生活には、いまなお自然なかたちで「医食同源」の考え方が生きています。孫氏は「人類の二十一世紀の主食は、薬膳になるはず」とも言っています。
(藤本 肇・漢方ジャーナリスト)